ニューロンの最大の特徴は2つの神経突起、つまり、“情報”の入力装置である「樹状突起」と出力装置である「軸索」をもつことです。これらの神経突起が空間的に正しく配置されることで、適切な回路接続がつくられます。特に、樹状突起のかたちはニューロンのタイプごとに大きく異なり、入力線維の種類やニューロンの情報処理能力を規定する大きな要因となります。つまり、個々のニューロンのかたちには機能に直結する重要な意味があるのです。わたしたちは、精巧な三次元構造の樹状突起をもつ小脳プルキンエ細胞をモデルとして、その樹状突起の空間配置のしくみを研究してきました。そして、まず、リン酸化酵素LKB1シグナル経路が、自己の樹状突起どうしの交錯を防ぐ重要なはたらきをしていることを明らかにしました(Cell Reports, 2018; Front Mol Neurosci, 2018)。また、プルキンエ細胞の特徴である大きな1本の樹状突起を構築するためにアクチン骨格制御因子N-WASP-Arp2/3シグナルが必須であることも明らかにしました(Development, 2022)。プルキンエ細胞を含む多くのニューロンの樹状突起にはそれぞれ固有の特徴がありますが、それらの制御システムはいまだによくわかっていません。わたしたちは、樹状突起のかたちづくりの基本原理を明らかにし、その機能的な意味に迫ることを目指しています。